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学校で英語を勉強してきたけれども、実際に英語でコミュニケーションをとる機会はほとんどない。この先、日本で就職して、国内で生活していくつもりなので、英語力は必要ないのではないか。まだ社会人としての経験がないか、経験が浅い方の中には、そのように考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか。特に若い世代の方々が英語を学ぶ必要性や意義について、NHKラジオ「ラジオビジネス英語」講師としてもおなじみの神田外語大学グローバル・リベラルアーツ学部特任教授でキャリア教育センター長の柴田真一先生にお話をうかがいました。

英語を人生の伴侶に

先生がお考えになる、英語を学ぶ必要性や意義についてお話しいただけますか。

柴田先生 国際ビジネスの世界では、英語がコミュニケーションのツールになっています。これまでグローバル化といえば、日本から海外を目指す動きが中心でしたが、今では海外から日本へ流れ込む動きが加わり、国内でもツールとしての英語が求められるようになりました。では、そのツールとしての英語とは何でしょうか。私は、自分の気持ちを表現する英語力だと考えています。コミュニケーションでは「事実」と「気持ち」を表現しますね。事実の部分は近い将来、AI(人工知能)に任せられる日が来るかもしれませんが、自分の気持ちを伝えることは難しいでしょう。困難に直面したときにチームで一丸となって解決方法を考えたり、部下のモチベーションを上げたりする場面など、人と人のコミュニケーションでは気持ちを伝えることが欠かせません。

また、異文化を学ぶことも大切です。英語はできても、歴史や価値観など、相手の発言や考えの背景にあるものを知らなければ、コミュニケーションは成立しません。学生から「洋画を見ても英語が難しくて理解できない」と相談されることがありますが、外国の映画は異文化理解の教材と考えると別の楽しみ方ができます。登場人物の会話のやりとり、表情、ボディランゲージ、コミュニケーションの取り方を意識して観るとさまざまな発見があるはずです。

国内外問わず、またどんな業種においても、英語ができることで任される仕事が必ずあります。そして、英語でコミュニケートする力を身に付けることで、活躍の幅は格段に広がります。特に若い世代の方には英語を人生の伴侶だと思って、楽しく学習を続けてほしいですね。

英語が切り拓くキャリアの道

  • 英語の習得はご自身のキャリア形成に役立ちましたか。

    柴田先生 学生時代は経済ではなく、言語や文化を専攻していました。銀行に入行した当初は国内の支店に配属されましたが、上司から「英語できるよね?」と声がかかり、外資系企業を担当するようになりました。その後も新規顧客の開拓など、実際にコミュニケーションのツールとして英語を活用して、多くのことを学ばせてもらいました。それが少しずつ認められ、海外勤務が叶いました。

  • インタビューイメージ

海外勤務で印象に残っている経験を教えてください。

柴田先生 銀行員としてロンドンへ駐在した当初、ミーティングの場面では聞くことに意識を集中させるあまり、私は自分の意見を全く出せていませんでした。すると、いつの間にかミーティングには呼ばれなくなり、上司に確認したところ、なんとYou’re not interested, are you?(興味ないんでしょ?)という答えが返ってきたのです。発言しないと話に興味がないと解釈されてしまうのですね。「次の会議では発言するから参加させてほしい」と伝え、なんとか引き続き参加できました。

また、会社説明会に参加してQ&Aで最初に手を挙げて質問した際には、プレゼンターがThank you for your question.と言いながら、丁寧に応じてくれました。特に興味深く感じたのが、説明会の後に会場の方々から声をかけてもらったことです。今になって振り返ると恥ずかしいと思うような質問でしたが、そうした場面で自分の存在感を出すことは、とても大切なことだと感じましたね。

きちんと英語で自分の意見や気持ちを伝えることで、初めて信頼関係を築くことができます。言語化して伝えなければ、相手には伝わりません。逆に、もし相手の発言をよく理解することができなかったりもっと知りたいと思ったりしたときは、どんどん質問していく。自分のことを理解しようとする人には、相手も真摯に向き合ってくれるはずです。

公の場で、英語で質問するのには勇気がいりますよね。

柴田先生 日本の文化では、なかなか手を挙げて質問することは少ないかもしれませんが、そこはマインドセットを変えて質問するように学生たちに伝えています。特にビジネスでは、知ったかぶりをしたり、自分なりの解釈をして放置してしまうと、後々思わぬトラブルに見舞われたりしますからね。

ただ、聞き返し方のポイントは押えておく必要があります。たとえば、相手が全部話し終わった後に、I beg your pardon?と言っても、相手はどこから話せばいいかわかりませんよね。そんなときは、わからなくなった時点で話を遮って内容を確認したり、聞き取れなかった部分に絞ってピンポイントで聞き返したりしていくといいのではないでしょうか。英語そのものというよりは、そうした英語を使ったコミュニケーションのスキルを高めていくことが、仕事に対する自己肯定感につながってくるのだと思います。

また、ビジネスの現場では、商品を買う側、いわゆるバイヤーの立場が強いのが一般的です。これまでは欧米諸国がその立場にありましたが、今では新興諸国がバイヤーとしての存在感を高めています。国際ビジネスの世界では、英語を母語としないノンネイティブが、英語を母語とするネイティブよりも多いのが現状です。そんな中で、ノンネイティブに配慮したシンプルでわかりやすい英語、plain Englishを使うことがビジネスマナーになりつつあります。わからないことは堂々と聞き返し、互いに誤解がないように確認し合うことができる。ようやくそういう時代が来ましたね。

英語学習の壁を突破するヒント

英語学習者の中には、英語の学習法に自信がない、進歩を感じられない、そもそも英語の学習自体が苦手、という方が多くいらっしゃいます。そうした方へのアドバイスをいただけますか。

柴田先生 英語学習がうまく進められない理由の一つに、文法にこだわり過ぎてしまうことが挙げられます。正しい英語を話さなければいけないという呪縛があって、それに囚われてしまうのかもしれません。外国語学習において文法が大切なことは言うまでもありませんが、文法ばかり気にしていたら、楽しいはずの英会話もつまらないものになってしまいますよね。まずは相手に伝えたいことがあって、それを自分の語彙で何とか伝えてみる、語学はそこから始まります。文法はあくまでも、伝えるための手段として意識すればいいのではないでしょうか。

また、多くの日本人が英語力の伸び悩みを感じている理由としては、日本語を英語に変換する練習が不十分であることが考えられます。以前、イギリスで行われた学会で、日本人の英語力の伸び悩みについて意見を求めたところ、ある研究者から、「日本語で言いたいことを英語に置き換える練習をどれくらいやっているか」と聞かれました。日本の英語学習の現場では、リスニングやリーディングに多くの時間を費やす一方で、日本語を英語に変換する練習はあまり行われていませんね。一方、海外の英語学習の現場では、母語を英語に変換する練習や、ある気持ちを伝えるためにどのような英語が使えるかという観点での練習が繰り返し行われています。そうした練習の一環として、邦画を英語字幕で見てみるのもよいかもしれませんね。
「この日本語はこういう英語になるのか」ということを考え、また、そこから文化の違いに気付かされる。そうしたことの積み重ねで、自分の成長を実感できるようになると思います。

あと、英語の4技能である「リスニング」「スピーキング」「リーディング」「ライティング」はすべてリンクしています。学生から「リスニングができない」と相談を受けることがしばしばありますが、それは英語を聞き慣れていないからという場合と、そもそもスクリプトを読んでも理解できないという場合もあります。読んでわからないことを、聞いてわかるはずがないですよね。また、多くの英語学習者の目標は話せるようになることだと思いますが、書けないことを話せるようになろうと頑張ったところで、たいした結果は出せないと思います。4技能を切り離して考えない、というのも英語を学習する上で押さえておいてほしいポイントですね。

Versant by Pearsonを活用して、実践的な英語力を高める学習へ

英語の習熟度を上げるために、テストを受けることは効果的ですか?

柴田先生 学習と並行して、英語を積極的に使っていきたい人は半年に一度を目安に試験を使って自分の英語力の現在地を知ることは効果的だと思います。ただ、試験のための勉強では、仕事で実際に使う英語力を身につけるのは難しいかもしれませんね。仕事で使える英語をマスターするには、どんな場面で英語を使うのかを具体的に考えてみることが大切です。たとえば、商談やプレゼンテーション、Eメールでのやり取りなどをイメージして、それに合った学習方法を選ぶことが重要です。

リーディングやリスニングに重点を置く試験が多い中、Versant by Pearson English Certificateはスピーキングとライティングも含めた4技能をバランスよく測ってくれます。英語で聞いて理解して、英語で答えるプロセスを測っており、問われる内容も実践的なものが多いです。自分の英語力を総合的に把握できれば、具体的な目標をたてやすくなりますね。それに基づいて学習を進めていけば、より効率的に英語の習熟度アップを図ることができるでしょう。

興味を力に変え、英語でつながる未来へ

これからのグローバル社会を担う、若い世代の方にメッセージをお願いします。

  • インタビューイメージ
  • 柴田先生 自分の興味を広げることは、英語学習に非常に役立ちます。たとえば、外国の友達ができると、英語を使うようになりますよね。また、相手の国に興味を持って、英語で情報収集をすれば、語彙が増えて、それを実際の会話でも活用できるようになるでしょう。英語を学ぶのではなく、英語で何かを学んでいくのです。こうして英語に触れる機会を増やすことで、人脈と情報の幅が広がっていきます。人と信頼関係を築くことで、より広い世界を知ることができ、学習も一歩前進するのです。

    また、英語を話す際に間違いを恐れる気持ちは理解できますが、この恥ずかしさは誰もが感じるものです。聞き手は、相手の言わんとしていることを理解することだけを考えていて、文法的にど

うか、などということは全く気にしていないのです。われわれが外国人の話す日本語を聞くときを考えてみればわかりますよね。ですから、外国語を話すときには多少の間違いを恐れず、コミュニケーションを優先することが大切です。

無駄な学習を排除して資格試験の得点アップを図りたいという学生をよく見かけます。何事も効率的に進めることは確かに大切ですが、最短距離を選ぶことが全てではないと思います。人生ではどこで何が役立つかわからないので、若い皆さんにはすぐに成果を求めるのではなく、周り道というか、興味のあることに徹底的に取り組んでいただきたいですね。そうしたことが、最終的に自分の人格形成や人間力、人生の豊かさにつながってくるのではないでしょうか。

  • 柴田真一先生

    柴田真一先生

    NHKラジオ
    『ラジオビジネス英語』講師

  • 神田外語大学グローバル・リベラルアーツ学部特任教授、キャリア教育センター長。専門は国際ビジネスコミュニケーション。
    上智大学外国語学部卒、ロンドン大学大学院経営学修士(MBA)。
    みずほフィナンシャルグループの海外支店での駐在勤務を経て、大学教員となる。

    学生時代の専攻・学科

    外国語学部ドイツ語学科

    学生時代の夢・目標

    就職活動のポイントは「海外で外国人を相手に仕事をしたい」という1点のみ。
    業界は絞らずに海外マーケティングの仕事をさせてもらえそうな会社を探しました。
    航空、商社、メーカーを重点的に回りました。
    当初考えていなかった銀行は国際業務に関わる人材が不足気味な印象を受けたので、思い切って決めました。