おぼえた日記

2024年11月13日(水)

※ caption : card to pick up(esp. hyakunin isshu karuta)  Ariwara no Narihira
by Peter MacMillan (百人一首カルタ・取り札)




11/13(水)
「ちはやぶる神代も聞かず龍田川ー」

英語で読む百人一首 ピーター・J・マクミラン

不思議の国の和歌ワンダーランド 第17番

2022年6月10日 京都新聞デジタル所載




ちはやぶる
神代も聞かず
龍田川
から紅に
水くぐるとは




(百人一首カルタでの英訳)

Such beauty unheard of
even in the age of the aging gods-
the Tatsuta River
tie-dyeing its waters
in autumnal colors.

Ariwara no Narihira






[現代語訳]

(ちはやぶる)神代にも聞いたことがない。龍田川の水面に真っ赤な色に紅葉が散り敷き、その下を水がくぐって流れるとは。




* 歌は新編国歌大観の「百人一首」を原本とし、表記は適宜、かなを漢字に改めています





🖼️🪮🌊🍁🍁💧🏞️ 落語に漫画に大胆リメイク

この和歌は、屏風(びょうぶ)に描かれた絵を題材にして詠んだものである。このような和歌を「屏風歌(びょうぶうた)」といい、『古今集』の時代にはよく詠まれた。業平が見た絵には龍田川に紅葉が流れている様子が描いてあった。

「ちはやぶる」は神に掛かる枕詞(まくらことば)。もともと「千早振(ちはやぶ)る」は、勢いのある様、荒々しい様を表す。人間とかけ離れた荒々しい力を持つものはつまり神であって、「ちはやぶる」は神やそれに関連する語にひろく掛かる。「ちはやぶる神代も聞かず」という表現は、「人間の世よりもずっとスケールの大きい神々の世ですら聞いたことがない」という意になり、後に続く紅葉の様子がいかに特別なものであるかを強く示す。龍田川は大和国(奈良県)を流れる川で、紅葉の名所として知られる。「から紅」は、鮮やかな紅色のこと。

この歌でもっとも問題になるのは結句「水くぐるとは」の解釈である。出典『古今集』の和歌としては現在、「紅葉が水を絞(くく)り染めにする」の意で「水くくる」と清音で読むと解釈されている。一方、中世の『古今集』の注釈書では、「水くぐるとは」と濁音で読み、「紅葉の下を水が潜(もぐ)ってくぐる」と解釈されている。そのため、定家が『百人一首』にこの歌を撰(えら)んだときには濁音で「潜(くぐ)る」と理解していたと考えられてきた。ただし、近年では定家も清音で「絞り染めにする」と理解していたのではないかという説も示されており、一筋縄ではいかない。解釈には多様な可能性があるのだ。そこで今回、現代語訳は「水くぐる」法海に基づいて作成し、英訳は「水くくる」に基づいて訳してみた。「tie-dyeing」で「絞り染め」である。英訳にこちらの解釈を選んだのは、「紅葉の下を水が潜っている」と情景を直接的に描写するよりも、「紅葉が水を染めている」という抽象的な表現の方がより詩的だからだ。

この歌は非常に有名で、さまざまに享受された。『伊勢物語』106段では、『古今集』とは異なり、男が親王と龍田川の散策をしている場面で詠んだ歌とされている。また、古典落語の演目にも「千早振(ちはやふ)る」がある。私の友人の落語家、立川談慶(だんけい)氏がよく演(や)る。この噺(はなし)は、和歌の本文を独創的に解釈して滑稽な物語を展開していく。その流れを追っていくと、まず、「龍田川」という相撲取りを、力士が嫌いな遊女「千早」が「振る」。別の遊女「神代」も受け入れてくれない(「神代も聞かず」)。その後、千早が龍田川に「から」(豆腐の殻、おから)を求めるも、振られた龍田川は与えなかった(「殻くれない」)。そして千早は井戸に身を投げて、「水くぐる」ことで死んだ。さて残る「とは」というと、実は遊女千早の本名が「とわ」であった、という落ちである。

現代の漫画『ちはやふる』も、この有名な和歌からタイトルが付けられている。古典を敬いつつ、大胆に書き換えていく日本文化の特質の一つである。やはり日本文化はリメイク文化だと思う。







🎋🎏🌸🎎🎍🎑⚡️ {二十四節気}

ー恵みの雨に豊作を願うー

{芒種}


2022年は6月6日が芒種(ぼうしゅ)の始まりにあたる。「芒(のぎ)」とは、米や麦などの穂の部分にある棘(とげ)のような突起のことをいう。つまり「芒種」とは「芒」を持つ植物の種をまく季節のこと。昔はこのころに、豊作を願ってたくさんの人々が穀物の種をまいていたのだろう。

ただし、現在の稲作では品種改良もあり、これより少し前の時期に種まきをしている。例年梅雨が始まるころだ。植物を育てる恵みの雨。梅雨が明ければ、京都はいよいよ暑くなってくるだろう。皆様は元気でお過ごしだろうか。





詠み人 在原業平朝臣

ありわらのなりひらあそん 825〜880年。父は平城天皇の皇子である阿保親王、母は伊都内親王。六歌仙の一人。『伊勢物語』の主人公のモデルとされる。



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