国際会議では、自己紹介や司会者によるメンバー紹介の場面がつきものです。またQ&Aセッションで聴衆が所属や氏名を名乗って質問するようなこともよくあります。
このように人名が出て来たとき、基本的にその名前の漢字を日本語読みか中国語読みして通訳しますが、それにまつわる苦労話は枚挙にいとまがありません。
事前にどの漢字の名前か分かれば何ら問題無いのですが、耳だけが頼りで、どの漢字か特定できない、漢字が思い浮かばないといったとき、訳せない、あるいは間違えて訳してしまう恐れが出てきます。
一例として「ウエダさん」。
「上田(Shangtian)」か「植田(zhitian)」、字が違えば中国語の発音は異なります。一体どっちの字の「ウエダさん」か知らなければ、それを中国語でどう発音したものか判断がつきません。
「ワタナベさん」や「アベさん」も、どの漢字を使うか幾つかバリエーションのある名字です。予め字がわからなければ、間違った中国語読みになってしまうかもしれません。
日本人の名前を中国語で言われて窮することもあります。
例えば「"Shanben(シャンペン)"さんに宜しく...」と中国語で言われても、「山本さん」か「杉本さん」か、どちらの可能性もあり、誰のことを指しているのか知らなければ訳せません。
日本語で「チョウさん」と言われたときも、趙(Zhao)さんなのか張(Zhang)さんなのか迷います。
「コウさん」に至っては、予めどちらの「コウさん」のことか知らなければ、黄(Huang)/江(Jiang)/洪(Hong)/候(Hou)/孔(Kong)/康(Kang)/高(Gao)のどの字?ということに。適当に訳すこともできないし、誰のことか伝えられず、話が噛み合わなくなるかもしれません。
事前に名簿を頂ければ助かりますが、その名簿が漢字ではなく、アルファベットだけで作成されていると、これもまた難儀します。
"Li"という姓が「李」、「厲」、「黎」、「栗」のどの字か特定できず、声調がわかりません。これを日本語読みすべきときに「リさん」か「レイさん」か「リツさん」かも迷います。
固有名詞の漢字が特定できないために訳せない――。
逐次通訳であれば、その場で聞いたり書いてもらったりできるかもしれませんが、同時通訳では、ほぼお手上げ。"无能为力,束手无策"です。
事前に名簿の提供をお願いしたり、出てきそうな名前を聞き出したり、調べておくしかありません。
不知芳名――ああ、君の名は。