※ caption : card to pick up(esp. hyakunin isshu karuta) Emperor Koko by Peter MacMillan (百人一首カルタ・取り札)
11/08(金)
「君がため春の野に出でて若菜つむー」
英語で読む百人一首 ピーター・J・マクミラン
不思議の国の和歌ワンダーランド 第15番
2022年5月27日 京都新聞デジタル所載
君がため
春の野に出でて
若菜つむ
我が衣手に
雪は降りつつ
(百人一首カルタでの英訳)
For you
I came out to the Fields
All the while, on my sleeves
a light snow falling.
Emperor Koko
[現代語訳]
あなたのために春の野に出て若菜を摘(つ)む私の袖に雪が降り続けていて。
* 歌は新編国歌大観の「百人一首」を原本とし、表記は適宜、かなを漢字に改めています
💠💠💠 大切な人への特別な贈り物
今日取り上げるのは、新春に天皇が詠んだ歌である。若菜は春先に萌え出る青色の野菜の総称。羹(あつもの)(スープ)にすると邪気を払うという。醍醐天皇の時代から、正月に天皇に若菜を供することが年中行事として定着したようで、正月の景物として歌に詠まれることも多い。4句の「衣手」は袖の意で、平安時代以降、ほとんど和歌専用のことばとして用いられた。
この歌をめぐっては、理世撫民(りせいぶみん)(世を治め、民を労る)の歌と解する説や、苦労して若菜を摘んだ臣下を思いやった歌とする説のほか、光孝天皇自らが雪の降るなか若菜を摘んだのではなく、若菜を贈る際に雪が降っていたためにこのように詠んだと見る説など、様々に解釈されている。英訳では「for you」つまり特定の大切な人のために摘む、というイメージを強調してみた。今の日本では「つまらないものですが」「粗茶です」「荷物になりますが」など、人に物を贈るとき謙遜することが多いと思うが、昔の人はまるで現代の外国人のように渡していたのだろうか。
この歌からは、若菜や正月、邪気払いといった縁起の良い情景が次々に浮かんでくる。それだけでなく、天皇の御製(ぎょせい)ということもあって、特別感もある。しかし、この歌を英訳するとなると、そうしたイメージはなかなか伝わりにくくなってしまう。そのため、英訳では、若菜を「the seven greens of spring」すなわち春の七草として訳し、若菜を摘むことと行事との関連を表してみた。もとの歌に詠まれた縁起のいい様子は示しきれていないし、散文的な訳し方であることは否めないが、歌のニュアンスに少しでも近づけられたのではないかと思う。
ところで、この歌は競技かるたをやっている方にとっては、いくらか面倒な札として記憶されているかもしれない。というのは、初句「君がため」で始まる歌は、『百人一首』のなかに2首あるからだ。もう1首は「君がため惜しからざりし命さへ長くもがなと思ひけるかな」。2句目の最初が「は」か「お」のどちらで読み上げられるかによって、取る札が変わる。つまり決まり字が長いのだ。このようなことを知るとき、競技かるたは、たいへん日本的な競技だと感じる。札を素早く取らなければならないけれど、お手つきしないように決まり字が読まれるまで待たないといけない。瞬発力に加え、忍耐力も必要なのである。この連載でも舞か紹介しているように、私は4年ほど前に「英語版カルタ」(下記のQRコード参照)を作った。英語では決まり字は作れないので、代わりに「決まり語」を作ってみた。しかし最近、もっと工夫ができるのではないかと考えるようになり、再チャレンジをしているところである。より日本のかるたに近いゲームにできるように、英語版も決まり語を調整していきたい。いずれ本連載でも、その工夫の様子をお伝えしようと思っている。
🎋🎏🌸🎎🎍🎑 {二十四節気}
ー万物の気が満ちるー
{小満}
2022年は5月21日が小満(しょうまん)の始まりにあたる。春の盛りが過ぎて植物をはじめとする万物が、ある程度、成長してくる季節である。「麦秋」という言葉があるが、それはちょうど小満のころのことをいう。このころ、去年の秋に蒔(ま)いた麦が収穫期を迎え始める。
「竹の秋」という言葉もある。これは筍(たけのこ)に栄養分を与えるため、竹の葉が黄色く変色して落ちることからできた言葉だ。盛りを迎える植物が多い一方で、違った表情を見せる植物もある。
実は私の家も竹藪の中にあり、この季節は毎日、庭が黄色に覆われている。日に日に青空は広くなっていく。そして夜は、月の光が美しくこぼれる。
詠み人 光孝天皇
こうこうてんのう 830〜887年。第58代天皇。仁明天皇の第3皇子。陽成天皇の後に55才で即位。