おぼえた日記

2023年7月2日(日)

源氏物語 関屋
行くと來と せき止めがたき涙をや 絶えぬ清水と
人は見るらむ
え知りたまはじかしと思ふに いとかひなし
あふさかの関やいかなる関なれば繁《しげ》き
なげきの中をわくらん

うたたねの記
いとせめてわびはつるなぐさみに。さそふ水だにあらばと
朝夕のこと草に成ぬるを。そのころ後の親とかたのむべき
ことはりも淺からぬひとしも。遠つあふみとかや聞もはる
けき道を分て。都のものもうでせんとてのぼりきたるに。
何となくこまやかなる物語などするつゐでに。かくてつく


とおはせんよりは。ゐなかの住ゐもみつゝなぐさみたまへ
かし。かしこも物さはがしくもあらず。心すまさんひとは
すみぬべきさまなるなど。なをざりなくいざなへど。
さすがひたみちにふりはなれなん都のなごりも。いづくを
しのぶこゝろにか。心ぼそくおもひわづらはるれど。
あらぬすまゐに身をかへたると思ひなしてとだに。
うきをわするゝたよりもやとあやなく思ひたちぬ。
くだるべき日にもなりぬ。よふかくみやこを出なんとするに。
ころは神無月の廿日あまりなれば。有明の光もいと心ぼそく。
風の音もすさまじく身にしみとをる心ちするに。人はみな起さ
はげど。人しれずこゝろばかりには。さてもいかにさすらふる
みのゆくゑにかと。たゞ今になりては心ぼそきことのみおほか
れど。さりとてとゞまるべきにもあらねば出ぬるみちすがら。
先かきくらす泪のみさきにたちてこゝろぼそく悲しきことぞ
なにゝたとふべしとも覺えぬ。ほどなく逢坂山になりぬ。
をとに聞し關の淸水もたえぬ淚とのみ思ひなされて。

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