おぼえた日記

2024年10月28日(月)

※ caption : card to pick up(esp. hyakunin isshu karuta) Semimaru by Peter MacMillan (百人一首カルタ・取り札)


10/28(月)


「これやこの行くも帰るも別れてはー」

英語で読む百人一首 ピーター・J・マクミラン

不思議の国の和歌ワンダーランド 第10番



これやこの
行くも帰るも
別れては
知るも知らぬも
逢坂の関



(百人一首カルタでの英訳)

So this is the place!
Crowds, coming going
meeting parting,
those known, unknown-
the Gate of Meeting Hill.

Semimaru



[現代語訳]

これがあの有名な、行く人も帰ってくる人もここで別かれては、知っている人も知らない人もここで会うという、逢坂の関なんだなあ。



* 歌は新編国歌大観の「百人一首」を原本とし、表記は適宜、かなを漢字に改めています。



💠💠

So this is the place!
crowds,
coming
going
meeting
parting,
those known,
unknown-
the Gateof Meeting Hill.



👤👥🛖 歌のリズムと動き伝える工夫

せわしなく行き交う人々の動き、出会い、別れの中に、人生の深さとはかなさを感じる。『百人一首』の中でも特に優れた歌の一つではないだろうか。人間の生き方が深く詠まれている歌でありながら、ここにはリズム感と動きがある。凝縮されたテーマの深みと、生き生きとした軽妙な表現のコントラストが素晴らしい。

作者は謎の多い伝説的な歌人、蝉丸である。蝉丸は、盲目の法師とも親王に仕えていた小役人ともいわれるが、はっきりしたことは分からない。ただ歌の素晴らしさゆえに、語り継がれてきた人物なのだろう。かつての逢坂(おうさか)の関付近には蝉丸の名を冠する神社があり、その中のひとつ、関蝉丸(せきせみまる)神社を先日訪問してきた。今年創祀(そうし) 1200年を迎える神社は、建物の老朽化が進んでおり、修復工事に向けてクラウドファンディングが行われたらしい。歴史ある神社がこれからも長く続いていくことを願うばかりだ。

さて、歌の世界でもある逢坂の関は、山城国(京都府)から近江国(滋賀県)へ行くときに越える要衝の地、逢坂山にあった。現代では京都府と滋賀県は同じ近畿地方だが、平安時代は山城国が畿内とされ、都と同じ文化圏に属していた一方で、東山道(とうざんどう)の近江国は畿外とされていた。近江国から伸びてゆく街道は東国、さらには陸奥へと続いてゆく。その始まりにある逢坂の関は東国への入り口であり、その関所を越えることは大きなたびになることを意味していたのだ。

英訳する際、「関」を直訳すると「barrier」となるが、それでは閉鎖的な感じがしてしまう。そのため「the Gate of Meeting Hill(人の行き交う坂の入り口)」と訳した。また普段和歌は5行詩の形で訳しているが、あえて1行あたりの単語を一つにすることで、視覚的なリズム感を出し、行き交う人々の動きを表現してみた(カルタの表記では、その雰囲気が伝わらないため、訳文を再掲する)。

私は今までに『百人一首』を2回翻訳した。今回の連載でも歌によっては新たに3回目の訳を掲載しているが、この歌の訳は初めて訳したときのままだ。『百人一首』を最初に全部訳し終えたとき、当時私を指導してくれていた文学者の加藤アイリーンさんの勧めで、訳をドナルド・キーン先生に見ていただくことになった。ただしアイリーンさんは、この逢坂の関の歌はキーン先生にはあまり見せたくない、5行詩の形になっていないから絶対よくないとおっしゃると思う、とためらっていた。だからおそるおそる見ていただいたのだが、蓋(ふた)を開けてみると、キーン先生が特に評価してくださったのはこの歌だった。1行に1語を置く構成に、躍動感・リズムがあり、動きを感じるとおっしゃり、果てには「明治時代から数十回訳されている『百人一首』であるが、この訳が一番すぐれている」とまで褒めていただいた。英語にも日本語にも造詣の深いキーン先生に、翻訳を認めていただけたのはとても嬉(うれ)しく、他界された今でも懐かしく思い出す。


詠み人 蝉丸

せみまる 生没年未詳。平安時代前期に活躍。「坊主めくり」でも人気。

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