「実習フランス語教程―初級から中級まで」からの抜粋。
(済みません、私的利用が目的の文書だったので、歴史的仮名遣ひで表記されてゐます。漢字だけは略字に直しておきました。)
時制の照応。
... ただし、実際には、文意によつて、これらの原則とは異なつた照応関係が現れることも多い。先に主節が現在や単純未来であれば、従属節中の動詞は文意に応じて適当な時制をとると述べたが、実際には、すべての「時制の照応」が「文意に応じて」行なはれると言つた方が正しい。
1 J'ai compris que le travail est_un trésor.
2 On vous_a dit que Pierre partira demain?
3 Il a promis qu'il aura fini le travail avant la fin du mois.
4 Il a dit qu'il avait fini le travail dont_il parlait ce matin.
(Il dit qu'il a fini le travail dont_il parlait ce matin.)
5 Il a dit qu'il l'avait_expédié avant mon départ.
(Il dit qu'il l'avait_expédié avant mon départ.)
6 Il a dit qu'il ne pourrait vivre sans moi.
(Il dit qu'il ne pourrait vivre sans moi.)
7 Il a dit qu'il aurait dû venir plus tôt.
(Il dit qu'il aurait dû venir plus tôt.)
文 1 を見よう。主節は過去であるが、従属節の動詞は現在に置かれてゐる。「労働は宝だ」といふことが現在もなほ不変の事実としてとらへられてゐるからである。ただし、照応の原則に引きずられて、従属節が半過去になることも多くみられる。
文 2 では主節は過去であるが、従属節に単純未来が現れてゐる。「Pierre の出発」が現在から見てもなほ未来のことだからである。ただし、このやうな場合でもまた、原則通り条件法現在を使ふことも多い。
文 3 で、従属節中に前未来が使はれてゐるのは、仕事の終る「月末」が、現在からみてもまだ未来のことだからである。
文 4 を見よう。従属節の il avait fini は原則通り「過去の過去」であり、主節が現在なら括弧内の文のやうに複合過去で言はれるところである。しかしながら、italic 体の部分 parlait (半過去) は、文意から明らかなやうに主節と同時に生起してゐたことではない。この半過去は、主節との関係で半過去になつてゐるのでなく「仕事が終つた」といふ過去の行為の背景を述べる半過去であつて、主節が現在であつても、括弧内の文のやうに半過去のまま変はらない。
文 5 における従属節の大過去は、主節の過去に対する過去であるよりは、むしろ「私の出発」といふ過去の出来ごとに対する「過去完了」として用ゐられてゐる。主節の動詞が現在になつてもも、「私の出発」が過去のことである以上、括弧内の文のやうに、その大過去はそのまま変はらずに残る。
文 6, 7 を見よう。従属節に条件法現在と過去が用ゐられてゐるが、これらはいづれも過去未来でも過去の前未来でもなく、すでに学んだ条件法の「法」としての用法である (-> p. 361, 365)。すなはち「私なしには」、「もつと早く」といつた非現実の仮定に対する帰結を表はす条件法であり、これらの文の主節が現在であつても、括弧内の文のやうに、従属節に変化はない。
5/12 の日記に、続きを書きました (同じく文法書のまる写し)。
「il avait fait tomber les bûches」は、「部分的同時」に該当するのではないでしょうか。