※ caption : マクミランさんが監修した英語版「百人一首カルタ」
10/2(水)
英語で読む百人一首 ピーター・J・マクミラン
不思議の国の和歌ワンダーランド 特別編(前編)
2022年2月10日 京都新聞デジタル所載
日本の古典文学の翻訳を手掛けるピーター・J・マクミランさんに、藤原定家撰と伝わる『百人一首』を読み解いてもらいます。毎週1首ずつ、英訳を通して見えてくる歌の世界の豊かさを、世界初の英語版百人一首カルタのイラストとともに味わいます。本編開始に先立つ特別編として、エッセーとインタビューでマクミランさんの新連載への意気込みを紹介します。
筆者インタビュー
ピーター・J・マクミラン
アイルランド生まれ。アイルランド国立大学ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン卒、同大学院で哲学の博士号、米国で英文学の博士号を取得。来日後は杏林大教授、東京女子大講師を歴任。現在は東京大学非常勤講師を務める。2008年に英訳『百人一首」を出版し、日米で翻訳賞を受賞。16年に英訳『伊勢物語』、18年に『百人一首』の新訳がPenguin Booksより出版される。日本での著書に『日本の古典を英語で読む』『英語で味わう万葉集』など。
自然と一体、深い感動
ー 百人一首との出会いは。
初めて知ったのはカルタ。お正月に日本人の友人たちと遊びました。より深く知ったのは今から20年近く前、アイルランドに帰ろうか日本に残ろうか、迷っていた時です。友人が「ピーターは詩を書いているのだから、日本の歌集を訳したら答えが出るのでは」と言ってくれて『百人一首』を訳し始めたのです。
ー そこから日本の古典の世界に関心が向いた。
『百人一首』で私の人生は大きく変わりました。翻訳を通じて、歌に凝縮された日本人の心や美意識、四季の感覚に触れることができました。何より、自然と対立するのではなく、自然と一体化するような精神性に深い感動を覚えました。ヒョク人一種を翻訳しなければ、今の私はなかった。京都の住んでいなかったでしょうし、日本にいなかったかもしれない。
翻訳で浮かぶ日本人の心
ー 英語に訳すことによって歌の世界への理解が深まる。
別の言語に訳すことで、もとの歌の意味や日本語の特性が浮かび上がってきます。人と自然の関係にしても、日本人は花や鳥あるいは川や雲といった自然の中にあるものに自らの心を託します。時にはその境界が曖昧になり、自他の区別が揺らぐことすらあります。それは主語がなくても成り立つ日本語の特性と関係します。英語は基本的に、主語がないと困ります。さて、どうやって訳すか。腕の見せ所です。これまでに2度、『百人一首』を訳し他のですが、この連載でもいくつかは新しく訳し直したいと思っています。また、外国のポエムとの比較もしてみたい。連載では、日本の大学院生たちの手を借りて、言語や文化の違い絵のりぁ意を深めていきます。
ー 紙面ではマクミランさんが監修したカルタも紹介する。
時には専門的で硬い話になってしまうことがあるでしょう。でもカルタの絵があると、小さなお子さんでも、歌の世界に親しみが持てるのではないでしょうか。読み札と取り札が絵合わせになっているので、イラストだけでも楽しめます。毎回、1首ずつ取り上げてエッセーで読み解いていくのですが、時には「英語ワンポイント」や「二十四節気考」といったコーナーを設けて、いろんな角度から「百人一首」に親しめるように工夫します。
ー 昨春から嵯峨に移り住み、間もなく1年になる。
嵯峨は、藤原定家が『百人一首』を編んだ地とされ、西行や松尾芭蕉ゆかりの地でもあり、日本のこてん聖地です。同じ自然に囲まれ、四季を感じることができ、多くのインスピレーションが得られます。時には私の個人的な暮らしいぶリも「小倉山日記」と銘打って、リポートします。長期の連載になりますが、よろしくお願いいたします。(聞き手・阿部秀俊)
🔳連載を手伝う学生のみなさん🔳
笈田彩代(おいだ・さよ)京都大学人間学部4年 女房装束を中心とする日本服飾史
宗澤奈緒美(むねさわ・なおみ)京都大学大学院文学研究科修士課程 歌枕及びそれが詠まれた平安和歌
藤田亜美(ふじた・あみ)上智大学大学院文学研究科博士課程 源氏物語を中心とした中古文学
宮武衛(みやたけ・まもる)京都大学大学院文学研究科博士課程 中古・中世の和歌および漢詩文
渡辺悠里子(わたなべ・ゆりこ)京都大学大学院人間・環境学科研究科博士後期課程 中古・中世の日本語表記