おぼえた日記

2024年11月18日(月)

※ caption : card to pick up(esp. hyakunin isshu karuta)  Lady Ise
by Peter MacMillan (百人一首カルタ・取り札)




11/18(月)
「難波潟みじかき蘆の節の間もー」

英語で読む百人一首 ピーター・J・マクミラン

不思議の国の和歌ワンダーランド 第19番

2022年6月24日 京都新聞デジタル所載







難波潟
みじかき蘆の節の間も
逢はでこの世を
過ぐしてよとや






(百人一首カルタでの英訳)

Are you saying, for even a moment
short as the space
between nodes on a reed
from Naniwa Inlet,
we should never
meet again?

Lady Ise



[現代語訳]


難波潟に生えている蘆の節の間のような、短い間さえも、あなたに逢わないでこの世を過ごせとおっしゃるのでしょうか。






💠 新訳

Are you saying, for even a moment
short as the space
between the nodes on a reed
from Naniwa Inlet,
we should never meet?





🎋🌾🌱🌊🚣🌃👘

「節の間」に繊細で尊い美意識

作者とされる伊勢は『古今集』を代表する歌人の一人であり、宇多天皇やその皇子敦慶(あつよし)親王らと結ばれ、恋多き女性としても有名であった。この歌も「過ぐしてよとや」と相手に鋭く問いかけ、恋の思いを切々と訴える。しかし、この歌は彼女の家集(作品集)である『伊勢集』に紛れ込んだ他の人の歌で伊勢の作品ではないとする説が有力だ。

「難波」は摂津国(大阪府)の歌枕。現在の大阪湾付近で、海浜の風景が詠まれることが多い。なかでも難波潟の蘆は盛んに詠まれた当時の名物だった。この歌の「難波潟短き蘆のの節の」は序詞(じょことば)として「間」を導くと同時に、その「間」の短さの比喩になっている。また蘆の節は「よ」とも言う。「この世」の「よ」にはこの「節(よ)」が掛けられ、「蘆」の縁語となっている。干潟の穏やかな情景のなかに、激しい恋心を詠み込んだ秀逸な歌である。

英訳では「節の間」という言葉を訳すのに苦労した。日本語では節と節の間の「短さ」がそのまま逢瀬の「短さ」、つまり空間的な狭さがそのまま時間の短さの比喩となっている。だが英語では空間の短さは「space」を、時間の短さは「time」をそれぞれ「short」の後に補う必要が出てきてしまう。やむなく時間の短さは「for even a moment」と訳した。

『百人一首』には詞書(ことばがき)がないので、どのような状況で詠まれた歌なのか知ることができない。ただ、この歌は、定家が撰者(せんじゃ)の一人を務めた『新古今集』に選び入れられており、そこからこの歌についての認識を窺(うかが)うことはできるかもしれない。『新古今集』の恋歌は恋歌一から恋歌五までの5巻に分かれており、恋の進行度合いによって並べられている。恋歌一なら片思いの段階、恋歌四なら隙間風が吹き始め、恋歌五なら恋が終わってしまった段階、という具合である。そしてこの歌は恋歌一に採られている。つまり定家たち『新古今集』の撰者は、この歌の主人公はまだ想い人と対面できていないと解釈したのだろう。以前の英訳では「we should never meet again」(もう2度と会えないのでしょうか)と問いかける形にしていたが、『新古今集』での位置を踏まえ、今回の新訳では「again」を削除した。

私としては、節の間を詠み込むのは大変東洋的だと感じる。蘆のように細長いものを見る場合、外国では多くの場合その全体を見るだろう。しかしこの歌では、食物の一部分、しかもかなり小さい部分に注目する。節のある植物といえば竹だが、私が育ったアイルランドに竹はない。竹を見慣れていたから、蘆の節に視点が置かれたのではないか、などと考えてしまう。小さなものに焦点を絞る、いわばズームイン文化とも呼ぶべき感性は、例えば同じ『百人一首』の「村雨の露もまだ干(ひ)ぬ槇の葉に霧立ちのぼる秋の夕暮れ」にも表れている。

節の間という細やかで小さいものに、少しだけでも逢いたいという恋心を託す。これは繊細で尊い美意識なのである。




詠み人 伊勢

いせ 872?〜940年ごろ。藤原継蔭(つぐかげ)の娘。紀貫之と並び称されることもあった。平安時代を代表する女性歌人。三十六歌仙の一人。

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