おぼえた日記

2024年11月22日(金)

※ caption : card to pick up(esp. hyakunin isshu karuta)  Priest Sosei
by Peter MacMillan (百人一首カルタ・取り札)




11/22(金)
「今来むと言ひしばかりに長月のー」

英語で読む百人一首 ピーター・J・マクミラン

不思議の国の和歌ワンダーランド 第21番

2022年7月08日 京都新聞デジタル所載






今来むと
言ひしばかりに
長月の
有明の月を
まち出でつるかな










(百人一首カルタでの英訳)

As you said, 'Im coming right away,'
I waited for you
through the long autumn night,
but only the moon greeted me
at the cold light of dawn.








[現代語訳]

「いま行くよ」とあなたは言っていたのに、いつしか夜が長い九月、それも有明の月の時期になってしまいましたよ。




* 歌は新編国歌大観の「百人一首」を原本とし、表記は適宜、かなを漢字に改めています











💠 新訳

As you said, 'I'm coming right away,'
I waited for you all those nights.
But in the end it was only the moon
that greeted me
at the cold light of dawn.







🌆☀️☀︎🌙🌙🌕🌕🍁🫷

夜の光に詩情 日本は「月の国」

月の運行に基づく旧暦では、日付によってどんな月が空に出るかを知ることができる。例えば三日月は文字通り3日に出る月、十五夜は15日に出る月をいう。この歌で詠まれている有明の月は、日付でいうと20日前後、結句にあるように長く待たないと出てこない月のこと。例えば満月なら日没とともに東の空に昇るが、有明の月が出るのはそれよりもずっと遅い時間、深夜になってのことである。

第18番でもふれたように、平安時代には、「今来む」という約束を当てにして訪れを待つのは女と決まっている。つまり、この歌は実体験ではなく、恋人を待つ女性の心情を巧みに表現したものである。それゆえ有明の月は、眼前の景を読み込んだというより、長い間待つ苦しみを詠むための創作と考えるのが穏当であろう。

ところで、女が男を待っていたのは、どれくらいの間か。一夜待ったという説と、何ヶ月も待ったという説とがある。詳しい説明は省くが、出典の『古今集』の歌としては、待ったのは一夜と理解される。ただし『百人一首』の歌としては、選者(せんじゃ)とされる定家の解釈に従って数ヶ月と読み、現代語訳でもそう解した。カルタの英訳は、一夜待ったという説に基づいて作成していたが、今回新たに、何ヶ月も待ったという説に基づいて作成したものを新訳として掲載する。

さて、外国人は日本国旗「日の丸」を見て、日本を太陽の国と思いがちである。極東の日本は、アジアで初めて太陽が出てくる国でもある。ただ、日本文学の翻訳をしてきた私にとって、日本はむしろ月の国であるように感じる。というのは、月の歌が豊富に詠まれていることに加え、三日月、望月、有明の月というように、月の見え方を細かく描き分けているからだ。

欧米でも満月や三日月を盛んに詩に詠む。19世紀のアメリカの詩人であるエミリー・ディキンソンは「月は実の金色のあごであったのだ」と始まる作品で月の美しさを愛(め)でている。ただ、欧米の詩には、日本とは大きく異なる点がある。月を意味するラテン語「LUNA」から派生して、「LUNATIC」(ルナティック、常軌を逸したさま)という語が生まれたように、月のせいで、おかしな気になると詠まれることが多いのだ。狼(おおかみ)が出るのも月の夜、人間が狼になるのも月の夜とされている。ディキンソンのように月を賛美することがある一方、しばしば月を畏(おそ)れてきたのである。

ちなみに、日本においても「月の顔を見るは忌むこと」(竹取物語)というように、月を見ることを不吉とする言説が、いくらか見られないわけではない。けれどもそれは少数派。どんな月にせよ、それに美を見出そうとする日本人が多数派であったことは、今日に伝わる文学作品から窺(うかが)われるところである。月があったからこそ、日本の美学が形成されたといえるかもしれない。







詠み人 素性法師

そせいほうし 生没年未詳。900年代初頭に活躍した歌人、僧侶。僧正遍昭の子。桓武天皇の曾孫。


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