★名詞の意味合いは冠詞などによって6種類に変化する
Now the holiday travel rush is worsening labor shortages around the country, especially in the tourism industry.、第1文のlabor shortages「人手不足」は複数形:、「人手不足(が1か所だけでなく日本のあちこちで同時に発生している)」といった意味です。それぞれの場所での人手不足を1件として数えると、合計すれば複数あることになります。
Popular sightseeing spots here in Tokyo are packed with tourists. But the effects of the labor shortage can be seen all around.第4文ではthe labor shortageと単数形:単数形になっているので、それら全体をまとめて1つのこととして捉えています。「その(日本のあちこちで)人手不足(が起きているという1つの現象)」です。このように、labor shortagesとthe labor shortageは意味合いは異なるのですが、自然な日本語に訳すとどちらも単に「人手不足」となってしまいます。
日本語の名詞とは根本的に異なるとお考えください。英語では、全ての名詞は、潜在的には抽象的で一般的なものです。そこにaやtheといった冠詞を付けたり、複数形にしたりすることで、「その単語の意味の幅を制限し、意味を確定させる」というのがルールになっています。自然な日本語にすると同じ訳語になることが多いため、その意味合いやニュアンスを判別するのが難しいのですが、以下のように分類してみましょう。
英語の名詞の意味は、「theを付ける/付けない」という2つのやり方(特定・不特定)と、「何も付けない/aを付けて単数とする/複数形にする」という3つのやり方(抽象・具体単数・具体複数)を掛け合わせることで、6種類に変化します。
(1)抽象的かつ不特定
何も付けないshortageは「不足(していることという抽象的で曖昧な概念)」です。冠詞などによる意味の制限を全く受けていないため、意味が際限なく広がる感じで、ありとあらゆる「不足」を含んでいます。
(2)抽象的だけど特定
the shortageと定冠詞theを付けると、「不足(していることという特定の概念)」を表します。theによって他のいろいろな概念とははっきりと区別されるが、その範囲内にあることは全て含んでいるというニュアンスになります。theによる「総称」用法はここから来ています。
(3)具体的・単数で不特定
不定冠詞aを付けてa shortageとすると、「(ある1つのもの・ことが)不足(している状態)」という具体的な意味になります。
(4)具体的・複数で不特定
shortagesと複数形にすると、「(複数のもの・ことが)不足(している状態)」や、何かが「(あちこちで)不足(しているという状態)」のような意味になります。
(5)具体的・単数で特定
ご質問にあった第4文のthe labor shortageは、このパターンです。「(日本のあちこちで起きている、その)人手不足」全体をまとめて1つの概念として捉えているため、単数形になっています。
(6)具体的・複数で特定
the shortagesのように複数になると、特定の複数の何かが「不足(しているという状態)」です。
「不可算名詞が特定の場合は可算名詞になる」というのは、(1)が(4)になった場合などを指している
★名詞の“6つの変化”を観察してみよう
前の放送回のToday's Takeawayでは、英語の名詞は本来は抽象的であるが、冠詞などと結びつくことによって意味合いが変化する仕組みになっているという解釈を説明しました。
具体的には、「theを付ける/付けない」という2つのやり方(特定・不特定)と、「何も付けない/aを付けて単数とする/複数形にする」という3つのやり方(抽象・具体単数・具体複数)を掛け合わせることで、英語の名詞は6種類の意味合いに変化します。
今回のニュースに出てくるbusinessを例に、もう一度確認してみましょう。
何も付けずにbusinessそのままなら、「商売、ビジネス」という抽象的な概念です。しかし、a businessとすれば「ある1つの企業」という具体的な意味に変化します。これは、「a『ある1つの』という冠詞が冠のように頭に付くことによって、businessという名詞の意味の幅を『ある1つの』という範囲内に押さえ込む」ために起きます。
そして、businessesと複数形にすれば「(不特定の)複数の企業」です。
定冠詞のtheを付けて、the businessとすると「その特定の1企業」、あるいは文脈によっては「特定の範囲でのビジネス」となります。theが付いて複数形のthe businessesだと、「その特定の複数の企業」となります。
英語では、動詞はgo(原形)-went(過去形)-gone(過去分詞形)のように、時制によって活用しますね。名詞も同じように、状況に合わせて活用すると考えてみてはどうでしょうか。意味が次のように変化していきます。
business (抽象的)
→the business (抽象的だが特定範囲)
→a business (具体的・単数で不特定)
→businesses (具体的・複数で不特定)
→the business (具体的・単数で特定)
→the businesses (具体的・複数で特定)
今回のニュースに出てくるbusiness以外の名詞フレーズも見てみましょう。
・a Japanese food maker
aが付いているので、具体的・単数で不特定な「ある1つの日本の食品メーカー」
・plant-based ingredients
複数形になっており、具体的で不特定な「植物由来の(いくつかの)原材料」
・alternative tuna
aもtheも付いていない。このtunaは「1匹のマグロ」などの具体的な意味ではなく、抽象的に「マグロ(の肉という物質)」
・the alternative tuna
「日本の食品メーカー」が開発した「その特定のマグロの代わりになるもの」
・the ocean
theの「総称」用法で、「(地球全体の)海」。抽象的だが、「地球という特定範囲の中での全ての海」を指し示している
ニュースには出てきませんが、6つの変化のうちのもう1つのパターンを使った例文も挙げておきましょう。
・Today's story about alternative tuna was interesting. I want to know more about the ingredients.
the ingredients「(先ほど述べた)その原材料」は、「特定で複数」の原材料を指しています。
それぞれの名詞には個性があり、その個性に沿った使われ方をします。しかし、不可算名詞とされている単語であっても、aを付ければ可算名詞へと変化するといったことが起きます。例えば、peace「平和」は(数えることができない)抽象名詞ですが、a peace that lasts「長続きする平和」(平和をいろいろなタイプに分類してみたときの1つ)という表現の中では可算名詞になっています。
英語の名詞フレーズの意味は、6種類の中のどれかです。これら6つの分類を意識すると、日本語では表現されないニュアンスを捉えやすくなります。
なお、表にしてみると、これらの変化を「見える化」することができます。「不特定(the以外)」「特定(the)」を横の行に、「何も付けない(無冠詞)」「aを付けて単数とする」「複数形にする」を縦の列にして分類すると、合計6つのマス目ができますので、試してみてください。