«Tartuffe (Molière)» の主人公は、極端に放恣なやり方をとる決疑論を駆使する Jésuite の典型として造形されているらしい。
この戯曲を読んで、決疑論というものが何らかの像を結ぶようになってきた (ただし、どの程度偏見の眼鏡で曇っているかは棚に上げておく。)
«Tartuffe» の source は例えば、ここ: http://www.theatre-moliere.com/index_.php?selecto=oeuvres&selecta=act&ido=23&acueil=ok
4 幕 5 場
引用冒頭の Tartuffe の望みとは、Elmire が夫を裏切って、T. と不倫の関係を結ぶこと。また二人の傍らにある table の下には E. の指示により、夫の Orgon が隠れている。 (こう書いていて思い出すのは、2007 の仏映画の Molière (Laura Morante、素敵だったなぁ)。)
ELMIRE
Mais comment consentir à ce que vous voulez,
Sans offenser le Ciel, dont toujours vous parlez?
でも、あなたのお望みをかなえてさしあげるにはどうしたらいいのでしょう。
そんなことをすれば、神様の怒りを買うことになりますわ。あなたが tutoyer でおつあいの神様の。
TARTUFFE
Si ce n'est que le Ciel qu'à mes voeux on oppose,
Lever un tel obstacle, est à moi peu de chose,
Et cela ne doit pas retenir votre coeur.
私が切なる願いを邪魔しているのが神だけなのであれば、
そんな障害を取り除くのは雑作もないこです。
あなたの心を患わすまでもありません。
ELMIRE
Mais des arrêts du Ciel on nous fait tant de peur.
でも、神様の裁きがこわくてなりませんの、私。
TARTUFFE
Je puis vous dissiper ces craintes ridicules,
Madame, et je sais l'art de lever les scrupules.
Le Ciel défend, de vrai, certains contentements;
Mais on trouve avec lui des accommodements.
Selon divers besoins, il est une science,
D'étendre les liens de notre conscience,
Et de rectifier le mal de l'action
Avec la pureté de notre intention*.
De ces secrets, Madame, on saura vous instruire;
Vous n'avez seulement qu'à vous laisser conduire.
Contentez mon désir, et n'ayez point d'effroi,
Je vous réponds de tout, et prends le mal sur moi.
Vous toussez fort, Madame.
あなたのその馬鹿げた恐怖を吹き払ってさしあげられます。
奥様、私は良心の細かい詮議立てを取り除く術をわきまえていますから。
神がある種の快楽を禁じているのは本当です。
でも妥協点がないというわけでもないんです。
様々な必要もあって、良心の絆を緩め、
動機の純粋さで、
行為の悪をなかったことにしてしまう
学問があるのです。
この秘密を、奥様、お教えします。
あなたは安んじて、私が導きに従っていらっしゃればいいのです。
私の欲望を満たしてください、恐れることはありません。
私がすべてを引き受けます。何かあればそれは私に。
やけに咳こまれますが、大丈夫ですか。
もう一例。
5 幕 1 場
「なんで、そんな大切な秘密文書 (これが公になると Orgon は大逆罪に問われかねない) を Tartuffe みたいな男に預けたんです」と問われて、
ORGON
Afin que pour nier, en cas de quelque enquête,
J'eusse d'un faux-fuyant, la faveur toute prête,
Par où ma conscience eût pleine sûreté
À faire des serments contre la vérité.
家宅捜索でも受けたとき、預かっていないと白を切り、真実に反する誓いを立てても、良心の呵責を受けないですむからだ。(訳、鈴木力衛)
ここでは、O. は T. の論理で語っている。つまり、「だから私にあずけなさいと、T. は私をいいくるめたんだ。」
この文章の構造、わかりにくい。
«Afin que j'eusse la faveur toute prête, pour nier d'un faux-fuyant en cas de quelque enquête.» ということだろうか。「何か捜査の手が入ったとき否認できるよう準備万端整った出来合いの faveur が手元にあるように。」«prête pour nier» と思い込んでしまったので、prête は prêt の誤植ではなかろうか、などと疑って要らぬ詮索をしてしまった。
「秘書がやったことだ。私は何も知らん (Je n'y suis pour rien)。」って、何にも変ってませんな。