おぼえた日記

2012年3月18日(日)

「光る源氏の物語, 大野晋・丸谷才一, 中央公論社」より。

大野 「霧のいと深き朝(あした) いたくそそのかされ給ひてねぶたげなるけしきにうち嘆きつつ出で給ふ」。つまり光源氏は眠たそうな顔で六条御息所のところから帰ろうとしました。この先のところ、「中将のおもと御格子一間(ひとま)上げて、「見たてまつり送り給え」とおぼしく御几帳ひきやりたれば」。そこ、どうですか。
丸谷 どうですかって.....。
大野 中将の御許は、六条御息所に向って御格子を一間上げて。
丸谷 見送りなさいと言って、几帳を横にずらしたんでしょう?
大野 なのに?
丸谷 「御髪もたげて見出だし給へり」というのは、起き上がっただけだと。
大野 そう。まだ、寝ているんですよ。これ、どういう意味ですか。
丸谷 ............
大野 つまり、六条御息所の愛執が深いというのはこういうことでしょう。朝、起きられないんですよ。
丸谷 あ、そうか、ぐったりしていた。うーむ。
大野 起きられないから、彼女は頭を上げるだけで源氏を見送ったというんです。それほどであったのに、源氏はまた中将にちゃんとこれだけ働きかけるバイタリティーを有するということが皮肉のように書いてある。
丸谷 おっしゃるとおりです。
大野 「御髪もたげて見出だし給へり」、これだけで作者はその一晩を全部表現した。こういうところが時々あるんですね。

恐ろしいほど精緻な読みだと思います。
その他に

「日本語で一番大事なもの」... は「岩波古語辭典」の卷末にある助動詞および助詞についての解説を敷衍したやうなものですが、辭典の解説は簡潔すぎて大野さんにしかわからないから、... (あとがき)

というようなことがさりげなく、書かれています。
「中級フランス語 あらわす文法」が面白い方は、「日本語で一番大事なもの, 大野晋・丸谷才一, 中公文庫」も面白く読めると思います。 (ただし、用例の多くは古文から採られています。)

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