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人生まだ半分、37才からの外国語
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人生まだ半分、37才からの外国語

2013年2月17日 (日)

resign or abdicate?
退位
ローマ教皇、ベネディクトゥス16世が今月末で退位すると発表し、大きな話題になっています。
私も西洋史は好きなのですが、「え、教皇って退位できるんだ」と思った程度のニワカなのでした。調べてみると、ちゃんと、退位に関する決まりもあるようです。
教皇の退位自体がとても珍しいことで(基本的には死亡するまで位に留まる)、なんと前回は15世紀の始めだったのだとか。
 
600年前って、それっていつ頃だ、という疑問が湧きますが、なんと教皇庁が南仏のアヴィニョンに移されて生じた「教会大分裂(大シスマ)」の時代ですよ。
あれこれとあって三人になってしまった教皇をまとめるために、公会議が開催されて三人が同時に位を辞することが決まり、グレゴリウス12世が応じたのが最後ということです。なんと1415年のこと。残る二人は自ら退位することなく「廃位」されたのですね。
前回がこうした、いわば「異常事態」の集結のためにおこなわれ、以後600年間に渡って絶えていたことなのですから、ローマ・カトリック教会にとって今回の発表がどれほどの大きな事件かがうかがい知れます。
 
教皇の退位はresignation
さて、この普段はほとんど使わない「退位」という言葉、英語では何というのかと調べてみました。
まずは安直に和英辞典にあたると、「abdication」という、少なくとも私は初めて目にする単語が登場しました。こういった耳慣れない表現が和英辞典で出てきた時は要注意です。
 
ひとまず辞書を離れて、今度はWikipediaにいってみましょう。
英語版のWikipediaで「Pope」の項を開いてみると、目次の中に「resignation」という項目を見つけることができます。リンク先の「Papal resignation」を開くと、次のような記述があります。
Despite its common usage in discussion of papal resignations,[4] the term "abdication" is not used in the official documents of the Church for resignation by a pope. Since the pope is supreme over the Church, there is no process in place for his involuntary removal.
教会における、ローマ教皇の体位を表すには、「abdication」ではなく「resignation」が使われる。とのこと。
和英辞典の結果をその場で鵜呑みにして使うのは、やっぱり避けるべきです。
 
abdicationじゃ、ダメなの?
もうひとつ、Googleで「abdication resignation」で検索すると、上位にCNNニュースの「Will Benedict 'resign' or '
abdicate' as pope? (http://news.blogs.cnn.com/2013/02/11/will-benedict-resign-or-abdicate-as-pope/)」という短い記事へのリンクが見つかりました。
こちらには、こんな記述があります。
So according to those rules, the correct word to describe the pope's actions would be resignation.
But many people have been calling the pope's announcement an abdication. That word normally applies in a royal context, when the person who leaves their position has an immediate successor in place.
教会の退位に関するルールで使われているのは、「resignation」なので、教皇退位を表すにはこの語を使うのが適当である。 
しかしながら、多くの人々が「abdication」を用いているが、「abdication」は、王族に関して使われることが多く、その場合は退位する人物が特定の後継者を残すものである(よって適当ではない)。という主張です。
最近私たちが知っている王様の「退位」といえば、昨年亡くなったカンボジアのシハヌーク元国王ですが、子息の中から現国王が即位しています。元国王が指名したわけでは、なかったようですが、少なくとも王族は血統で継承されるのが基本です。
 
ローマ教皇の場合は、後継者はコンクラーべと呼ばれる枢機卿による投票により選出されることが知られています。
そもそも教皇が存命中に退位することが極めて例外的であることもあって、自身の後継者選定に公式には関われません(実態はどうだか知りませんけど、やはり死後の投票への影響力は限られるでしょう)。
血統などによらず互選で選ばれる教皇に、王族と同じ語を用いるのはおそらく適切ではないでしょう。なので、やはり教皇の退位について言及するならば、resignationが適切そうです。
 
日本では、天皇は終身であることが定められており、誰かが「退位」する可能性はないわけです。こうなると、「退位」なる言葉は外国人専用ってことになりますね(もちろん、歴史上は、天皇が退位して上皇となったケースは多いのですが、退位ではなく「譲位」という表現を使うことが多いです)。
まあ、比喩的に長期間に渡って社長や会長の座にあった企業トップが「退位」することは、あるかもしれませんけど。
そんなわけで、今回の「退位」は、滅多なことでは体験できない、非常にめずらしい歴史の瞬間に立ち会えた、ともいえそうです。

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