2013年5月11日 (土)
語学学習の動機付け
SNSで研究材料を無料収集 昨日(2013年5月10日)早稲田大学で行われた、オンラインの外国語学習SNS「Lang-8」の創業者、喜洋洋氏の講演と、それに続くパネルディスカッションを聴講してきました。 内容的には、語学学習に終えるオンライン学習の意味合いや効果、起業、Lang-8のサービス内容そのものなど、いささか整理不足で散漫になった印象を受けました。ただ、喜氏の中国語学習体験に立脚した、「他にはないサービス」を事業化しようという意志と、起業してからの着実な歩みには感銘を受けました。具体的になにができるわけでもありませんが、今後の展開を応援します。 同時に、大学での「外国語教育」について、先日の黒田龍之助氏の講演とは別の方向から、問題を認識させられる場でもありました。 のっけから批判になって申し訳ないのですが、会場内で「Lang-8」を継続的に使っているユーザーの声が求められた際に、登場した「大学で英語を教えている」という人物の回答には少々驚きを禁じ得ませんでした。 この人物は、大学の講師であることを隠してユーザー登録し、学生の書いた英文を自分で書いたものとしてLang-8に投稿し、添削を受けてそのデータを研究用に集めているのだとか(講演の様子はUSTREAMで公開されることが予告されていますから、公開情報と考えて良いでしょう)。 そもそもユーザー同士が無償で相互に役立つことを基本として成り立っている場で、自らの立場を偽って研究の素材収集のために学生の文章を添削させているというのは、ずいぶんと身勝手な話です。 私ならば、このような研究材料の収集を無償で手伝わされているだけだったと知ったならば、きわめて不愉快でしょうね。こうした使い方を平然とするだけでなく、堂々とサービス提供者の前で公言するというのは、かなり非常識な振る舞いとして考えられません。 ハードルは下げるべきか? もう一つの疑問は、Lang-8というサービスの「問題点」として、「わざわざ文章を書いて投稿しなければならない」ことが何度も指摘されていたことです。もっと気軽に使えるようになってほしい、といった要望が目立ちました。 これに対して喜氏もハードルを下げていきたい旨の発言をしていましたが、それが事業上プラスかマイナスかは、喜氏ご自身の判断ですが、利害両面あることはたしかでしょう。 私の疑問は、たかが数行〜数十行の文章を書いて投稿することさえ面倒に感じている「ユーザー」を、動機づけてハードルを引き下げて、いったいどうしたいのか、ということです。 そもそもそれだけの努力を行っているのならば、外国語の習得などできるはずがありません。ハードルを下げるのは、「ちょっとやってみて、結局すぐに挫折する人たち」を、膨大に、しかも継続的に集めて全体のレベルを引き下げる結果を招くことは明らかです。 パネルディスカッションでは、「どのようにして学習モチベーションを高めるか」なるテーマでかなりの時間を使っていましたが、そもそもモチベーションを低い人々を無理に学習の場に引き寄せようとすること自体がナンセンスではないでしょうかね。 大学の授業で動機付け? こうした議論が当たり前に出てくるのは、大学という場でも「学び手のモチベーションを高める」ことが教える側の役割と認識されていることを示しているように思われます。 はたして、大学という場でそれは正しいのでしょうか。 いやしくも大学であれば、学生はなんらかの学習・研究に関心を持つことが求められます。 高校の延長で就職のための準備として大学に入ってきた学生もそれはたくさんいるでしょうが、その学生達はそもそも動機付けの対象でさえありません。学費を滞納さえしなければ、適当に遊んで卒業願うのが適切でしょう。 それなのに、大学側が懸命に動機付けをするなど、今時の学生は実にお気楽な「お客様」であるようです。 最後にパネラーの館岡洋子氏は、「SNSへの要望も良いが、リソースを示して、それをどう使うかは学習者次第でも良いのではないか」といった意味合いの言葉で締めくくっていましたが、私もまったく同感。 今回の講演とパネルディスカッションでは、主催者側の思い込みが強すぎて、結局議論の焦点が定まらないままに時間が経ってしまった感が否めません。それもまた、いまの大学という場が置かれている困難さの表れなのかも、しれませんが。 |